要約
千年後の日本を舞台にしたディストピア小説。人類は超能力「呪力」を持つことで文明を再建したが、その力の暴走を恐れ厳格な管理社会を築いた。表面上は平穏だが裏には業魔や悪鬼の脅威、化けネズミという従属種の存在があり、やがてそれが人類の過去と深く結びついていることが明かされる。
呪力を持つ人間が支配する未来社会を描いた長編で、現代社会に通じる要素が随所に見える。
今まで読んだ本のリストから ChatGPT に推薦してしもらった。存在を全然知らなかった。三冊の長編だけどあっという間に読めてしまう。ずっと読み続けたのも久しぶりだった。
以下、個人的に気なった箇所の自分用まとめ。ネタバレあり。
呪力と社会
呪力は万能の力であり、社会の基盤を支えている。一方で精神に左右されやすく、暴走すれば業魔や悪鬼といった脅威を生む。「人間を殺せない機構」が遺伝子レベルで組み込まれているが、それは同時に悪鬼のような例外を前にしたときに無防備であることを意味している。
起源と淘汰
呪力は突然変異として現れ、当初は迫害の対象となった。旧人類が恐れて攻撃に出たことがきっかけで、呪力者は反撃に転じ、文明は崩壊した。圧倒的な力の差は、旧人類の淘汰を決定づけた。その後、呪力を持つ人間が新しい秩序を築くことになる。
化けネズミの正体
化けネズミは人間に従属する下等種とされるが、実際には呪力を持たなかった旧人類の末裔である。縮小化や女王制といった遺伝子改変を施され、管理しやすい存在にされた。これは「他者を家畜化する支配構造」を象徴している。
東京の廃墟
中盤に描かれる東京は廃墟であり、かつての文明が呪力者の暴力によって崩壊した痕跡である。科学文明の墓標として機能し、主人公たちにとって過去との断絶を強く意識させる舞台になっている。
真理亜と守の幻影
終盤、早季の前に真理亜と守の幻が現れる場面がある。罪悪感が生んだ幻覚とも、呪力の残滓とも読めるが、象徴的には「犠牲を無駄にするな」というメッセージとして作用している。
闘いの後
化けネズミの反乱は鎮圧されたが、人間社会は不安を拭いきれない。教育や監視の強化、化けネズミへの厳しい管理といった対策が取られるが、それは根本的解決ではなく、抑圧を強めただけに過ぎない。同じことが繰り返される可能性は残されたままである。
まとめ
『新世界より』は、力を持った人間がどのように社会を築き、また崩壊させるかを描いた物語である。呪力は栄光と滅亡の両面を持ち、化けネズミは人間が背負った負の歴史を象徴する。結末は不安を残すが、その不安こそがこの小説の本質であるように思える。